PCR検査と抗原検査の違いについて

 新型コロナウィルスSARS-CoV-2)に感染していると診断するためには、このウィルスだけが持っている何らかの成分を検出しなければいけません。
 これには、健康保険が使えるものとして2つの方法があり、PCR検査と抗原検査に分けられます。

 まずは、よく用いられるアメリカの医師会報(JAMA)の2020年5月6日の解説記事の図をご覧下さい。
橙の実線(viral isolation from respiratiry truct)が「気道から分離したウィルス」の量の発症(symptom onset)からの経過です。
水色の実線が、日本では「陽性をもって感染している」と重用される鼻咽頭ぬぐい液によるPCR法(Nasopharyngeal swab PCR)の測定値の経過です。

 PCR検査は、新型コロナウィルスだけが持つ遺伝情報(RNA)を検出する方法で、試薬の合成が比較的容易なため、
新型コロナウィルス出現当初から検査の主役となって使われている方法です。
無症状の方にも実施できる感度の高い検査ですが、ウィルス固有の核酸を増幅して量を増やして精度を上げて見ているだけなので、
実際の感染力とは関係なく、「過去約2週間以内に新型コロナウィルスにかかったことがある」事実しか証明できません。
不顕性感染(かかっても症状が出ない)が、どのウィルスにも必ずありますから、症状が出ている方がPCR陽性で出ても、
現在の症状が本当に新型コロナウィルスによるものなのか分からない(10日前くらいにかかっているのに症状が出なかったが
、たまたま他のウィルスにかかって症状が出てPCR検査を受けたら、コロナウィルスは殆どいないのに、
遺伝子(RNA)だけが残っていて、PCRで増幅されたために検出されてしまったかも、というような)ことになりますが、
感染症に関しては「疑わしきも罰する」なので、PCR陽性者は社会活動をしばらくお休みいただくことになります。
 実際、治癒しているのにPCRは陽性となるケースさえあったため(最近では、オリンピックで来日したウガンダの選手団のコーチが、
隔離解除3日後のPCRで再陽性になったが、こういうケースは多々あるので再隔離はしない、という例があります)、
発症から10日以上たった方は自宅療養などの隔離解除の判定のためのPCR検査は必須ではなくなっています。(厚生労働省のQ&Aをご参照ください。)
 冒頭に紹介したJAMAの解説記事の図でも、発症から3週間くらいは「陽性に出ることがある」(PCR-Likely positive)と記載されています。
 従って、PCR検査は、接触者などでコロナに感染しているかもしれないが無症状という方が対象として適していると思われます。
 また、高価な専用機器が必要なので、当院のような一般診療所では、検査会社に検体を提出して検査してもらうことになりますので、
検査当日には結果が出ません。(土曜日や祝前日に受検される方は翌々日の報告になります。
日・祝は検査会社が来ないため、休日明けに検査するのと同じになりますから、PCR検査は行っておりません。

 抗原検査は、新型コロナウィルスだけが持つタンパク質を検出する方法で、そのタンパク質に結合するマウスの抗体を作成し
大量生産するまでに時間がかかりますから、PCR法に比べて、保険適用となり広く一般に使われるまでに時間がかかりましたが、
機械を使って発色を検出する抗原定量検査はPCR検査と同等の精度が認められています。(厚生労働省の発表
 当院のような一般の診療所では、抗原定量検査用の高価な機械は置けませんので、抗原定性検査(いわゆる迅速診断)を行っております。
昨年6月16日より、発症2日目から9日以内の有症状者は、陰性でも確定診断としてよいとされています。(参考:厚生労働省のサイト)。
 コロナウィルスは、インフルエンザウィルスと違って、発症前後が最もウィルスの量が多いので、
保険が効く発症翌日から発症72時間以内までにお受けになるのがお勧めです。非常に鮮明な陽性ラインが検査後すぐに検出できます。
当院の例では、発症9日目の人でも陽性ラインが出ましたから、保険適用通りの発症翌日から発症後226時間以内の方なら健康保険で検査が受けられます
(初診料等はかかりますが、検査代は無料ということになります)。
 抗原検査では、新型コロナウィルスだけが持つタンパク質に結合したマウスの抗体に結合するヒトの抗体に色素を付けて、色が見えるように発色を増幅していますが、
PCRと違って新型コロナウィルスの成分そのものを増幅することが無いので、ウィルスの量=実際の感染力を反映し、ウィルス量に応じた濃さの陽性ラインが出ますので、
インフルエンザに広く用いられる抗原検査と同様、感染者の早期発見に極めて有用と感じております。症状が無い人には、事前確率が低いために用いられませんが、
症状がある人で発症早期の方には、抗原検査の方が適していると思われます。
 結果が15分という短時間で出るのが最大のメリットです。
当院では、感染症の疑いのある方は、まず抗原検査で新型コロナウィルスかどうか検査し、
そうでないことが確認できれば、診療を行うことにしています。院内に感染症を入れないためです。

 また最初に紹介したJAMAの解説記事に戻りますが、引用文献3の直前の部分に
「a “positive” PCR result reflects only the detection of viral RNA and does not necessarily indicate presence of viable virus.」
とあり、「PCRで陽性であることは単にウィルスのRNA(遺伝情報)が検出された事を示しているだけで、必ずしもウィルスの存在を示していない」
という当たり前のことが、既に昨年の5月に発表されているのですが、未だに「PCR陽性=感染者」とされており、
無症状者の中から「発症するかもしれない候補者」を見つけるには有用かもしれませんが、
それ以外の場合は、感染力のないPCR陽性者を炙り出してしまい、「濡れ衣を着せてしまう」ことになるのでは、と
PCRを重用することを個人的には懸念しています。